お盆には、多くの曹洞宗のお寺で「施食会(施餓鬼会)」という法要が行われます。その法要では、『甘露門』という名前のお経を読みます。このお経は江戸時代の曹洞宗の学者である面山瑞方という方が古い式本をもとに校正・解説し『施餓鬼作法』として撰述しました。
甘露門とは、甘露の法問の略称であり、仏の教えそのもの。甘露とは、インドの古いヴェーダ時代から諸天の飲み物として信じられていた不老不死の水です。それが転じて、不老不死の理想郷を指すようになり、涅槃を意味することとなったとも言われています。
このお経は、和文と陀羅尼(ダラニ=呪文)で構成されています。内容は、仏法僧の三宝に加護を頂戴し、お釈迦様、観音様、阿難尊者をたたえ、道場に、餓鬼道に堕ちた無縁仏をはじめ、一切の精霊を集め、「・・普く、十方、窮尽虚空、周遍法界、微塵刹中所有国土の一切の餓鬼に施す、先亡久遠、山川地主、乃至曠野の諸鬼神等、請う来って此に集まれ、我今悲愍して・・・汝に食を施す・・・願は速やに成仏・・・」。
「私達は、飢えに苦しんでいる、あなたの御霊に、水や食べ物を与え、他の人たちと同様に、平安な世界に入られるように祈ります、あなたたちはもしその水や食べ物を、頂いたならば、速やかに煩悩やこの世への未練を離れ迷わず成仏してください。」という意味の和文の言葉を読誦します。
次に数々の陀羅尼を読みます。まず、①餓鬼を呼び寄せます。(雲集鬼神)②地獄の門を破り、施食供養の法会に参集させ、又、餓鬼はノドが細くて食べ物が入らないために、そのノドを大きく開いてあげます。(破地獄門開咽喉)③その開いたノドに仏の功徳でもって智慧の味が付いた食べ物を供養してあげます。(無量威徳自在光明加持飲食)④甘露の法味をもって一切の苦を除いてあげます。(蒙甘露法味)⑤毘盧遮那仏の加護によって、食べ物を多くの餓鬼達に与えようと願います。(毘盧舎那一字心水輪観)⑥五人の如来様を呼び出してあげます。(五如来宝号招請)⑦菩提心を発して修行への道をつけてやります。(発菩提心)⑧菩薩が受持するべき戒律を授けてあげます。(授菩薩三摩耶戒)⑨修行するべき場所に安住させてあげます。(大宝楼閣善住秘密根本)⑩全ての諸仏と縁を結び、悟りの世界に入るよう諭してあげます。(諸仏光明真言灌頂)、という内容です。
五人の如来様は、
多宝如来(宝勝如来)南 黄色(地)(仏の威光をもって、一切の餓鬼の無量の罪を滅し、餓鬼の心(怒りや貪りの心)を除いて、円満ならしめ富や幸福を授ける仏様で清らかな心を蘇らせます。)
妙色身如来(阿閃如来、あしゅく)東 青色(空)(無量の福により心身ともに満ち足りた優しいお姿になり、穏やかな表情に導きます。)
甘露王如来(阿弥陀如来) 西 赤色(火)(恐怖を無くし、飲食物を得る時には、全て甘露の素晴らしい食事に変じさ、無常の喜びを与え、身心に安楽の境地を与えて下さいます。)
広博身如来(中央大日如来) 中央 白色(水)(速やかに苦しみの身体を離れて、布施された物を自由に食べさせ、飲食の楽しみを与えてくださいます。)
離怖畏如来(釈迦如来) 北 黒色(風)(恐怖の世界や餓鬼の世界から離れさせて、仏様の世界、浄土の世界へと導いてくださいます。)
「南無」とは、心から信じます。従います。尊敬します。といったような意味です。
5人の如来様には、それぞれに役割のある仏様達です。
お寺で行われる「施食会(施餓鬼会)」は、以上のような意味合いをもって行われます。こうした行持に積極的に参加し、新しい絆を求めて自分の心に火を灯して、修行してみてはいかがですか。
それにしても、なんと「心の宇宙」の豊かなことでしょう。
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